今年(2023年)の10月1日から消費税のインボイス制度が始まりますね。   インボイス制度の導入に併せて各種の特例制度が用意されていますが今回はインボイス登録をしない免税事業者からの仕入の80%控除の仕訳、免税事業者がインボイス登録をした場合の2割特例の仕訳、そして両者の立場から交渉の落としどころについて金額面から探ってみたいと思います。   まずは80%控除の特例(経過措置)についてさらっと内容をおさらいしましょうね。   インボイス制度導入後、免税事業者等からの課税仕入について、最初の3年間(令和5年10月1日から令和8年9月30日)は、消費税額の80%相当額について仕入税額控除の適用を受けることができます。   そして、次の3年間(令和8年10月1日から令和11年9月30日)は、消費税額の80%相当額について仕入税額控除の適用を受けることができます。(平成28年改正法附則52、53)   こちらは仕入側での特例ですね。   次に2割特例(経過措置)についてもさらっとおさらいしましょう。   インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった場合は、売上で預かった消費税の2割を納付すればよいことになります。(平成28年28改正法附則51の2①②)   こちらは売上側での特例ですね。   80%控除の特例は仕入側、2割特例は売上側になり、両方が同時に適用されることはありません。   売上側がインボイス登録をすれば売上側で2割特例、売上側がインボイス登録をしなければ仕入側で80%控除の特例を適用することになります。   今後、仕入側と売上側の交渉の場面でどちらが特例を使うかによってインボイス制度導入前の取引金額を維持すべきか、変更すべきかの検討が必要になると思います。   もう既に交渉が進んでいたり交渉の結果、合意が済んでいる方もいらっしゃるのではないでしょうか。   今回は改めて様々な場面を比較検討してみたいと思いますのでこれから交渉される方、もしくは既に合意済みの方も再交渉のためにご参考になさってください。   この後の比較も含めて前提は以下の通りとしますね。   売上側:インボイス制度開始前は免税事業者   仕入側:課税事業者(原則課税適用)   取引金額:税抜本体で100万円、10%税込価格にすると110万円   まずはインボイス制度開始前の仕訳を確認しましょう。   売上側(免税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,100,000   /   売上高   1,100,000   ≪消費税申告時仕訳≫   なし   ≪現金収入額≫   1,100,000   売掛金の1,100,000円がそのまま手取りの現金収入になりますね。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,000,000   /   買掛金   1,100,000   仮払消費税   100,000   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   100,000   仮払消費税   100,000   本当は売上にかかる仮受消費税もあるはずですがシンプルに考えるために仕入にかかる仮払消費税を全額還付申告するという前提で考えています。   ≪現金支出額≫   1,000,000   買掛金の支払額は1,100,000円ですが消費税申告時に100,000円が還付(控除)になりますので相殺したところでの現金支出額は1,000,000円になりますね。   次はインボイス制度開始後に、売上側がインボイス登録をしない場合です。   この場合、通常であれば消費税を請求することが難しくなるため税抜本体価格での取引になることが予想されます。   売上側(免税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,000,000   /   売上高   1,000,000   ≪消費税申告時仕訳≫   なし   ≪現金収入額≫   1,000,000   売掛金の1,000,000円がそのまま手取りの現金収入になります。   消費税が請求できない分(10万円)、手取り収入は減りますね。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,000,000   /   買掛金   1,000,000   ≪消費税申告時仕訳≫   なし   ≪現金支出額≫   1,000,000   消費税申告時の還付100,000円がなくなりましたが、買掛金の支払額が1,000,000円になりましたので現金支出額は1,000,000円になり、インボイス制度開始前と変わらない現金支出額ですね。   売上側は免税事業者のままであるものの、取引価格はインボイス制度開始前の価格を据え置いたうえで仕入側で80%控除の特例を適用をする場合です。   売上側(免税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,100,000   /   売上高   1,100,000   ≪消費税申告時仕訳≫   なし   ≪現金収入額≫   1,100,000   売掛金の1,100,000円がそのまま手取りの現金収入になりますね。   インボイス制度開始前と変わらない現金収入です。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,020,000   /   買掛金   1,100,000   仮払消費税   80,000   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   80,000   /   仮払消費税   80,000   ≪現金支出額≫   1,020,000   消費税申告時の還付が80,000円になりますので、買掛金の支払額が1,100,000円との相殺差額で現金支出額は1,020,000円なりました。   インボイス制度開始前と比べて現金支出額が2万円増えましたね。   売上側がインボイス登録をして課税事業者になり2割特例を適用をする場合です。   売上側(課税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,100,000   /   売上高   1,000,000   /   仮受消費税   100,000   ≪消費税申告時仕訳≫   仮受消費税   100,000   /   未払消費税   20,000   /   雑収入   80,000   ≪現金収入額≫   1,080,000   売掛金の1,100,000円から消費税の納税額20,000円を差し引いた1,080,000円が手取りの現金収入になりますね。   インボイス制度開始前と比較すると2万円の収入減です。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,000,000   /   買掛金   1,100,000   仮払消費税   100,000   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   100,000   /   仮払消費税   100,000   ≪現金支出額≫   1,000,000   買掛金の支払額は1,100,000円ですが消費税申告時に100,000円が還付(控除)になりますので相殺したところでの現金支出額は1,000,000円になりますね。   インボイス制度開始前と現金支出額が変わりません。   インボイス制度開始後も売上側に免税事業者のままでいることをOKしながらも仕入側は現金支出額を増加させたくない場合にどのような金額にすればよいのかの試算です。   結論は税抜対価×110/102の金額を取引価格に設定すればOKです。   今回の場合ですと1,000,000円×110/102=1,078,431円になります。   売上側(免税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,078,431   /   売上高   1,078,431   ≪消費税申告時仕訳≫   なし   ≪現金収入額≫   1,078,431   インボイス制度開始前と比べて21,569円収入が減りました。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,000,000   /   買掛金   1,078,431   仮払消費税   78,431   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   78,431   /   仮払消費税   78,431   ≪現金支出額≫   1,000,000   買掛金の支払額は1,078,431円ですが消費税申告時に78,431円が還付(控除)になりますので相殺したところでの現金支出額は1,000,000円になりますね。   これで現金支出額がインボイス制度開始前と同額になりました。   インボイス制度開始後に売上側が課税事業者になりながらも売上側は現金収入額を減少させたくない場合にどのような金額にすればよいのかの試算です。   結論は税込対価×110/108の金額を取引価格に設定すればOKです。   今回の場合ですと1,100,000円×110/108=1,120,370円になります。   売上側(課税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,120,370   /   売上高   1,018,519   /   仮受消費税   101,851   ≪消費税申告時仕訳≫   仮受消費税   101,851   /   未払消費税   20,370   /   雑収入   81,481   ≪現金収入額≫   1,100,000   売掛金の1,120,370円から消費税の納税額20,370円を差し引いた1,100,000円が手取りの現金収入になりますね。   インボイス制度開始前と同額になりましたね。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,018,518   /   買掛金   1,120,370   仮払消費税   101,852   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   101,852   /   仮払消費税   101,852   ≪現金支出額≫   1,018,518   買掛金の支払額は1,120,370円ですが消費税申告時に101,852円が還付(控除)になりますので相殺したところでの現金支出額は1,018,518円になりますね。   インボイス制度開始前と比べて現金支出額が18,518円増えますね。   二つ前の例だと仕入側はインボイス制度開始前の現金支出と変わらないのでいいですが、売上側は減収になっていますよね。   一つ前の例だとその逆です。   両者をフェアに!という考えがあるかもしれないと思い、そうなるための計算式を検討しました。   数学が苦手な私、何とか無理やり探り当てた計算式をお伝えしますね。   税抜対価×1.08962264の金額を取引価格に設定すればOKです。   なぜ1.08962264なのかは無理やり探り当てたのでお答えできません!笑   どなたか数学が得意な方がいらっしゃいましたらもっといい考え方を教えてください!   今回の場合ですと1,000,000円×1.08962264=1,089,623円になります。   売上側(免税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,089,623   /   売上高   1,089,623   ≪消費税申告時仕訳≫   なし   ≪現金収入額≫   1,089,623   インボイス制度開始前と比べて10,377円収入が減りました。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,010,378   /   買掛金   1,089,623   仮払消費税   79,245   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   79,245   /   仮払消費税   79,245   ≪現金支出額≫   1,010,378   インボイス制度開始前と比べて10,378円支出が増えました。   これでフェア!?ですね。   1円の差額はご容赦ください。   今度は逆に売上側がインボイス登録をして課税事業者になり2割特例を適用したうえで、両者をフェアに!という考え方をした場合の計算式です。   こちらも何とか無理やり探り当てた計算式をお伝えしますね。   税込対価×1.00961538の金額を取引価格に設定すればOKです。   今回でいえば1,100,000円×1.00961538=1,110,577円ですね。   売上側(課税事業者)   ≪売上時仕訳≫   売掛金   1,110,577   /   売上高   1,009,616   /   仮受消費税   100,961   ≪消費税申告時仕訳≫   仮受消費税   100,961   /   未払消費税   20,192   /   雑収入   80,769   ≪現金収入額≫   1,090,385   インボイス制度開始前と比較すると9,615円の収入減です。   仕入側   ≪仕入時仕訳≫   仕入高   1,009,616   /   買掛金   1,110,577   仮払消費税   100,961   /   ≪消費税申告時仕訳≫   未収消費税   100,961   /   仮払消費税   100,961   ≪現金支出額≫   1,009,616   インボイス制度開始前と比べて9,616円支出が増えました。   こちらもこれでフェア!?ですね。   同様に1円の差額はご容赦ください。   インボイス制度の導入に伴って取引価格の変更をする場合に決められたルールはありません。   両者が納得いく形で合意できればOKです。   仕入側が売上側に対して、「課税事業者にならなければ、取引価格を引き下げる」とか、「それにも応じなければ取引を打ち切ることにする」などと一方的に通告することは、独占禁止法上又は下請法上、問題となるおそれがありますのでご注意ください。   なお、80%控除の特例が50%控除の特例になった際の計算や、それぞれの特例がなくなった際に負担がフェアになるための計算についてはご要望があれば計算いたしますので遠慮なくお申し付けください。   というか、そもそもそんなニーズがあるんでしょうか!?