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日本がいつのまにか「世界第4位の移民大国」になっていた件
6月15日、「骨太の方針2018」が閣議決定され、今後、外国人に対して新たな在留資格を設けることなどが明らかにされた。これまで認めてこなかった外国人の単純労働に門戸を開き、2025年までに50万人超の就業を目指すという。
「移民政策をとることは断じてありません」と繰り返してきた安倍政権だが、事実上の「移民」受け入れに大きく舵を切った形だ。
コンビニで働く外国人留学生や日本を目指すベトナムの若者たちとの対話から、現行制度の問題点をあぶり出したルポ『コンビニ外国人』の著者が、ニッポンの近未来を予測する――。
これから書くのは、難しい政治や法律の話ではない。すでに身のまわりで起こっているリアルな話であり、「知らない」「よくわからない」では済まされない。本に書いた部分と重なりもあるがご了承いただきたい。
厚生労働省の集計によると、いま日本では約128万人の外国人が働いている(2017年10月時点)。これは届出が義務化されてから過去最高の人数であり、この10年で倍増している(現在、就労が認められている在留資格は、「高度専門職ビザ」や「報道ビザ」「興行ビザ」「技能実習ビザ」など27種類)。
政府はこれまで何度となく「移民政策はとらない」と明言してきた。だが、実際にはいつの間にか100万人以上の外国人たちが日本で働いているのだ。
都心のコンビニだけでなく、ドラッグストアやスーパー、牛丼屋では多くの「留学生」がアルバイトをしているし、地方でも農家や工場や介護の現場では「技能実習生」が働いている。
その波は急速に広がりつつある。気付かないうちに、日本人の生活は外国人によって支えられている。深夜の工場でコンビニのおにぎりを作っているのも多くが外国人だ。
ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食」も、実はもう外国人労働者の下支えがないとなりたたない。和食の要のダシとなるカツオを獲る漁船でも、コンブの加工工場でも多くの実習生が働いているのである。
つい先日、「日本は世界第4位の移民受け入れ大国」というニュースが流れてきた。これはOECDに加盟する35ヵ国の最新データだ。上から順にドイツ、アメリカ、イギリス。日本は韓国を抜いて第4位になった。
しかしこれはイギリスがEU脱退を表明する前の2015年のデータなので、ひょっとすると、すでに日本はイギリスも抜いて、世界第3位の移民受け入れ国になっているかもしれない。
そんな状況にもかかわらず、日本にはこれまで公式の「移民」の定義すらなかった。
いわゆる「移民」のイメージは、「貧しい国から働きに来た人」かもしれないが、たとえば国連などの国際機関では、個人の経済状況には関係なく「1年以上外国で暮らす人」を移民としている。この定義に照らせば、イチローもYOSHIKIも移民だし、日本に一年以上住む外国人は全員移民である。
そしていま、日本には約247万人の在留外国人がいる。これはつまり、名古屋市民とほぼ同じ数の「移民」がいるということになる。
ちなみに、自民党の労働力確保の特命委員会による定義では、「移民=入国時に永住権を持っている者」であり、「就労目的の者は移民ではない」としている。そもそも移民の定義からして国際社会の認識とは完全にズレている。
いま、日本では働き手が足りない。2017年度の有効求人倍率は1.54倍。個人的には景気のよさはまったく実感できないが、44年ぶりの高水準なのだそうだ。現場では人が足りない。
今回、政府が外国人労働者受け入れに大きく舵をきった背景にあるのは、深刻な人手不足だ。政府の発表によれば、建設分野だけでも2025年までに30万人以上の外国人労働者が必要と試算されている。
現在、日本では約128万人の外国人が働いているが、急増しているのは「技能実習生」(約27万人)と「留学生」(約31万人)である。今回、政府が本腰を入れはじめたことで、実習生はますます増えていくだろう。
「技能実習生」の在留期間は、これまでは最長で5年だった。だが、10年まで認める新たな在留資格を創設するのだという。
しかし、本来、「外国人技能実習制度」は人手不足を補うためのものではない。外国人が日本の企業や農家などで働いて習得した技術を“母国の経済発展に役立ててもらう”という目的で創設された制度である。
この技能実習制度は、低賃金、長時間拘束など、ブラックな環境で働かされることも多く、国際的には「現代の奴隷売買」などと揶揄されることも多い。2017年には半年間で失踪者が3000人を越えた。昨年末に法改正がなされたが、国際貢献をタテマエとしながら、実質的には現場の労働力不足を外国人で穴埋めしているにすぎないのだ。
韓国が国策として国語教育などもしながら単純労働者を正面から受け入れているのとは対照的に、日本は国際貢献をタテマエとし、制度設計も十分整わないままにさらに外国人労働者を受け入れようとしている。
単純労働者への門戸が開放されたことで、日本で働く外国人はしばらくは増えていくだろう。
もっとも身近な外国人労働者といえば、コンビニや居酒屋で働く外国人たちだ。彼らは、実習生とは違い、ほとんどが日本語学校に籍をおく「留学生」である。
アメリカやイギリスなどは、学生ビザでのアルバイトは原則禁止。違反して見つかれば逮捕されることもある。日本でも留学生の「就労」は禁じられているが、働くことはできる。なぜか。“資格外活動”として「原則的に週28時間まで」のアルバイトが認められているのだ。
ちなみに「週に28時間」を仮に時給800円で計算すると、4週間で9万円弱。1000円で計算すれば額面で11万2000円の稼ぎになる。だが、いまの日本で10万円前後で1ヵ月暮らすのは厳しい。
さらに彼らの多くは、出国時に日本語学校への授業料やあっせん業者への手数料などで100万円前後の借金を背負って来日しているのである。借金を返済しながら、生活費を稼ぎ、寝る間を惜しんで勉強に励んでいる留学生も多い。
一番のネックは日本語学校の授業料の高さだ。だいたい午前中に3コマか4コマの授業を受けるだけで、年間70~80万円かかる。大手進学予備校の授業料とほぼ同額だから安くはない。
そんな日本語学校が現在では全国に643校を数える(そのうち公立は1校のみ)。全国の市立大学より多い。しかも2017年だけで80校、この5年間で200校以上も増えた。異常なハイペースである。
なぜこんなに増えているのかといえば、留学生ビジネスは「儲かる」からだ。そこには搾取の構造ができあがっている。
不動産会社や健康食品会社といった異業種からの参入も相次いでおり、授業のレベルや学習環境も決していいとはいえない。中には生徒100人に対し、教師がたったの1人という日本語学校もある。
教壇に立つ日本語教師も搾取される側だ。彼らも疲弊している。取材に応じてくれた日本語教師も「月収は20万円いくかいかないか」だと嘆いていた。
もちろんすべての日本語学校が悪徳ではないが、一部の学校では、企業に留学生をあっせんし、週に28時間という枠を越えて働かせていた事例もある。外国人留学生を相手に“国際貧困ビジネス”ともいうべき商売をしている学校があるのだ。
その闇は深く、ルートは海外の日本語学校や送り出し機関、ブローカーなどとも複雑につながっている。
世界中には「自分の国を出て海外で勉強したい」「働きたい」と考えている若者が大勢いる。どこかに僕/わたしが行ける国はないか――。
調べてみると、日本は政府が「留学生30万人計画」を推していて、アルバイトしながら勉強ができるらしい。留学資金は少し足りないが、街の日本語学校やブローカーに頼めばなんとかしてくれるようだ。
彼らのジャパニーズ・ドリームとは平均月収数万円という日常から抜け出して、いまより少しでもいい生活をすることだ。
しかし、いざ日本に来てみれば、働けるのは週に28時間まで。規則を破って働けば強制送還の憂き目にあう。実際、借金を背負ったまま無念のうちに帰国する元・留学生も少なくない。
一方で、留学生を日本に送り出すビジネスはもうピークを過ぎたという見方があるのも事実だ。現地では、「日本はオリンピックまでだ」「その後は送り先をオーストラリアや韓国に切り替える」という声も聞く。
今後、日本は加速度的に人口減少していく。しかし、労働人口が減るのは日本だけではない。現在、日本に一番多くの労働力を送り出している中国でさえ、労働人口のピークはすでに2011年に迎えている。
今後は労働力不足に陥った国々で、働き手の奪い合いがはじまるはずだ。そして、国境を跨いだ労働力の移動はますます激しく、いよいよ複雑になっていくだろう。
そんな環境で、すでに“老体”となっている日本が勝ち残っていけるだろうか。
単純労働者への門戸を開放しても、働く環境やバックアップが整っていない日本に魅力を感じる外国人がどれだけいるのだろうか。
近い将来、コンビニのレジは全自動化されるだろうが、はたしてそのとき、留学先に日本を選んでくれる外国人がどれほどいるのだろうか……。