日本で働く外国人は年々、増加している。少子高齢化が進み、産業活動を担う労働力人口不足が深刻化している日本社会において、これを解消する1つのカギとして外国人材の雇用が進んでいるという背景がある。しかし、今や労働力の補填(ほてん)という役割を越え、海外市場の開拓やイノベーションの推進力となる役割も期待されている。本稿では、こうした日本社会の現状や企業の外国人雇用の動き、外国人材への期待などをデータからひも解く。 外国人材の雇用は、年々拡大している。厚生労働省によると、2023年10月末時点の外国人労働者数は前年比12.4%増の204万8,675人となり、比較可能な2007年以降で過去最高を更新した(注1)。外国人を雇用する事業所数をみても、前年比6.7%増の31万8,775所と過去最高となった。在留資格別にみると、「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」を含む「身分に基づく在留資格」が全体の約3割を占める61万5,934 人と最多である。年々増加を続け、これに迫る勢いをみせているのが「専門的・技術的分野の在留資格」(注2)で、前年比24.2%増の59万5,904 人となった(図1参照)。 ジェトロでは同在留資格のうち、以下3つの条件を満たす人々を高度外国人材と定義している(高度外国人材活躍推進ポータル参照)。 また、2019年4月1日から開始した、新たな在留資格「特定技能」も「専門的・技術的分野の在留資格」に含まれる。 ジェトロが実施した2023年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(注3)でも、外国人材の雇用状況や今後の雇用方針について尋ねている。本調査によると、本社および国内工場において、常時雇用従業員として外国人材(技能実習、特定技能、高度外国人材を含む)を雇用している企業は全体の51.4%となった。企業規模別にみると、大企業では83.3%が外国人材を雇用しているのに対して、中小企業では45.7%と差がみられる。 他方、常時雇用従業員数に占める外国人材の割合に関しては、大企業より中小企業の方が高い。外国人材を雇用している大企業のうち、約半数では外国人材の割合が1%に満たない一方、外国人材を雇用している中小企業では37.1%の企業において外国人材の割合が1~5%を占め、同6%以上の企業も31.0%に上る(図2参照)。 また、本調査では、今後2~3年の外国人材雇用の方針についても尋ねている。回答企業全体をみると、「今後増やす/新たに雇用する」と回答した割合は外国人材全体で28.4%。これは「今後減らす予定」(1.1%)を大きく上回る結果であり、今後さらなる外国人労働者の増加が見込まれる。 企業規模別にみると、大企業では38.6%、中小企業では26.6%と大企業が上回る。在留資格別の「今後増やす/新たに雇用する」割合は、技術・人文知識・国際業務(高度外国人材)が全体の22.2%と、今後の雇用拡大意欲が最も高い。続いて、特定技能が11.1%、技能実習が10.5%という結果になった。業種別にみると、外国人材全体の雇用を拡大する企業は建設(44.2%)や通信・情報・ソフトウェア(42.9%)、旅行・宿泊業や飲食業などを含む「その他の非製造業」(42.4%、注4)などが上位だ(表1参照)。技術・人文知識・国際業務(高度外国人材)では、精密機器(32.4%)や情報通信機械/電子部品・デバイス(28.3%)で外国人材全体の雇用拡大割合(それぞれ31.1%、26.4%)を上回っており、とりわけ高度な専門知識や技術を持つ外国人材への期待の高さがうかがえる。 では、外国人材を雇用する目的や、外国人材に対する期待とは何か。1つには、減少を続ける日本の労働人口を支える役割が挙げられる。2022年10月1日現在、生産年齢人口は総人口の59.4%で2年連続の過去最低値となり、65歳以上人口は過去最高の29.0%を記録している(注5)。帝国データバンクが2024年1月18日~31日に実施した「」によると、1月時点における人手不足割合は正社員で52.6%、非正社員で29.9%となり、高止まりが続いている。業種別にみると、アフターコロナで急速な需要回復がみられる旅館・ホテルや飲食店、エンジニア不足が目立つ情報サービスなどで特に人手不足が目立つ(注6)。また、建設業、医療業、物流業では正社員において、約7割(順に72.0%、71.0%、69.2%)の企業が人手不足に陥っている。同3業種は、働き方改革の一環で時間外労働の制限が厳格化されることで生じる、いわゆる「2024年問題」(注7)を抱えており、今後さらなる労働力不足が予想される。これらの人手不足が深刻な業種は、前述のジェトロによるアンケート結果で今後の雇用拡大意欲が高かった業種とも一致がみられる(表1参照)。 また、日本商工会議所・東京商工会議所が全国の中小企業を対象に、2023年7月18日~8月10日に実施した「」では、回答企業の68.0%が人手不足と回答しており、2015年の調査開始以降の最大となった。このうち21.6%が「事業運営の具体的な支障が生じている(納期遅れ、品質・サービスの低下等)」、18.7%が「事業の拡大(新規顧客や新規市場の開拓)を見送った」と回答しており、すでに一部の企業では事業への影響が出始めていることがわかる。こうした中、回答企業の67.8%(注8)が「外国人材の受け入れを拡大すべき」と回答しており、その理由としては、最多となる86.6%が「企業の人手不足解消のため」を挙げている。このように人手不足によって企業活動の維持・継続も懸念される状況下で、打開策の1つとして注目されているのが外国人材の雇用である。 しかしいま、外国人材には単なる労働力の補填を超えた役割にも期待の目が向けられている。先出の「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)の2022年度版(注9)では、外国人材雇用に対する期待を尋ねている。本設問は「外国人材の雇用に期待する効果」を尋ねた上で、各項目を選択した企業に向けて、それぞれで期待する外国人材を在留資格別に聞いたものである(複数の在留資格を選択可)。結果をみると、ほぼすべての項目において、技術・人文知識・国際業務(高度外国人材)への期待がとりわけ高いことがわかる(図3参照)。同在留資格への期待として最も割合が高かったのは「外部評価の向上・発信力の強化」(77.9%)で、「新たな商品開発への貢献、イノベーションの創出」(73.8%)が続いた。そして、「海外市場のマーケティング強化」(72.2%)や「海外市場の営業・交渉力の向上」(71.8%)、「海外展開(現地法人化や協業など)への布石」(70.4%)、「言語対応力の強化」(70.4%)が続き、ビジネスの海外展開に資する能力・技術への期待がうかがえる。「労働力不足の解消」については、技術・人文知識・国際業務(高度外国人材)への期待は38.8%にとどまるが、技能実習(52.2%)がこれを超える結果となった。 次に、本調査の2023年度版に再び着目し、今後2~3年の外国人材雇用の方針に関する設問と、海外進出に関する設問の関係をみたい。本調査では、今後(2023年度も含め3カ年程度)の海外進出(新規投資、既存拠点の拡充)方針を尋ねているが、海外進出に意欲のある企業の方が外国人材の雇用を強化する方針にあることがわかる(表2参照)。すでに海外拠点を持つ企業についてみると、海外進出方針を「今後、さらに拡大を図る」とした企業は49.6%が外国人材全体を増やす/新たに雇用すると答えた一方、「現状を維持する」とした企業の同割合は26.6%にとどまる。現時点で海外拠点を持たない企業についても、海外に「今後新たに進出したい」とした企業では35.9%が外国人材全体の雇用を拡大する予定であり、「今後とも海外での事業展開は行わない」企業の同割合は17.0%と大きく下回った。在留資格別でも同様の傾向がみられ、今後の海外進出意欲が高い企業ほど外国人材の雇用にも積極的である。特に技術・人文知識・国際業務(高度外国人材)は、すでに海外拠点を持ち「今後、さらに拡大を図る」企業で40.7%が雇用拡大予定と、高い水準である。企業のグローバル化を推進するにあたり、外国人材の持つ言語力や国際感覚への期待が大きく、中でも高度外国人材の有する知識や技術へのニーズが高いことがわかる。 このように、外国人材は単に労働人口を補うだけの存在ではなく、特に高度外国人材を中心に、イノベーション創出や海外ビジネス拡大の担い手としても大いに期待されていることがわかる。高度外国人材が「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨(せっさたくま)を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」(注10)とされているように、この受け入れは企業の競争戦略ひいては国家戦略上重要となりつつある。 実際の企業活動の現場に目を移すと、精密部品の設計・製造を行う高砂電気工業(本社:愛知県名古屋市)では、2019年以降、インド人を中心に12人の高度外国人材を採用している。その採用後、社員の英語学習が進んだり、多角的な視点から機械設計のディスカッションができるようになったりというポジティブな影響がみられた(本特集「インド高度人材の活躍事例(1)高度外国人材をイノベーションの起爆剤に」参照)。また、建築・内装・インテリア事業を手掛け、ベトナムへの展開を進める素朴屋(本社:山梨県北杜市)でも、高度外国人材のもたらすインパクトを実感しているという。例えば、その貪欲(どんよく)な姿勢が日本人社員の意識変容を促し、ベトナム法人への赴任や同国でのプロジェクトへの参加を積極的に申し出る社員が現れた。また、高度外国人材の尽力によりEPA(経済連携協定)特恵関税の適用が実現し、100万円単位の節税効果が生まれているなど、実務面でのプラス効果も大きい(本特集「高度外国人材とともに、日本建築を世界へ」参照)。本特集では、両社をはじめ、高度外国人材を雇用している企業を取り上げ、採用の方針や自社にもたらされる効果、受け入れにあたってのポイントなどをインタビュー形式で紹介する。