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原・白川法律事務所 hara shirakawa law office
私道は、他人が所有する土地の一部ですから、公道と違ってだれでも自由に通行できるというものではありません。通行するためには何らかの通行権がなければなりません。
実際には通行権のない人が他人の私道を通行している例をよくみかけますが、これは私道の所有者が黙認しているため事実上通行できているというに過ぎないものです。したがって、私道の所有者から通行を拒否されれば通行できないということになります。その私道の所有者が、例えば、建物の建て替えの必要性から、私道部分をふさいでしまったとしても、原則的には文句をつけることができません。
通行権の種類としては、契約による通行権、慣習上の通行権、通行地役権の設定による通行権、囲繞地通行権などがあります。
契約による通行権
契約による通行権とは、通行のためにある部分の土地をその所有者から借りてしまうという方法です。有料で借りる場合を賃借権、無償で借りる場合は使用貸借権と呼びます。土地を借りてしまえば、通行だけでなく、駐車場用地、資材置き場などその他の目的にも使用できることになります。
土地の所有者が、通行だけに限定したうえで使用を認めたい、あるいは車の通行までは認めないという場合には、契約に際してそのような限定を付したうえで貸せばよいことになります。この場合には、後日のトラブルを避けるため、契約書を作成して調印しておくことが望ましいのは言うまでもありません。
慣習上の通行権
慣習上の通行権というのは、永年にわたって他人の土地を通路として使用してきた結果、その土地の形状が通路のようになってしまった場合を指します。
そのまま土地所有者が黙認し続けている限りは通路として使用できますので、問題ないのですが、仮に土地所有者に相続が発生したような場合に、新たな所有者が通路としての使用を禁止してしまったようなケースで、裁判所に申し出て、そのまま通路として使用させるように求めた場合、裁判所がその申し入れを認めてくれるかというと、よほどの条件がそろっていない限り困難だと思われます。他人の土地の所有権に制限を加えてしまうことになりますので、そう判断してもよいほどの過去の経緯などが必要になります。
慣習上の通行権が、法的な保護を受けられることは原則的にはあり得ないことと考えるべきでしょう。
通行地役権
通行地役権とは、他人の土地を自分の土地のために通行の用に供することができる権利です。この通行権は民法という法律に、物権という権利の一つとして規定されている通行権ですから、きちんと設定さえされてしまえば、極めて強力な効力をもった通行権になるということができます。
この権利を設定する場合、他人の土地を承役地、自分の土地を要役地と表現します。この通行地役権は、要役地に従属する権利ですから、要役地から分離することはできず、要役地所有権にともなって移転します。
この通行権は、主に設定契約もしくは時効によって取得することが多いでしょう。取得した通行地役権は、登記をしておかないと原則として第三者に対抗することができません。逆に登記されてしまえば、半永久的に効力を有する通行権となりますので、承役地の所有者は、そのあたりのことを十分に理解したうえで設定契約を交わす必要があるといえるでしょう。
この通行地役権については、後日トラブルが発生する可能性が高い分野ですから、この設定契約については、弁護士を依頼すべきだと思います。
袋地通行権
ある土地が他人の土地に囲まれていて公路(公道に限らず公衆が自由に通行できる私道も含んだ通路のことです)へ出ることができない(このような土地を袋地といいます)ときは、この土地の所有者は公路へ出るために、その周囲の他人の土地(囲繞地といいます)を通行することができます(民法第210条第1項)。この民法による通行権のことを袋地通行権といいます。
民法に規定された通行権ですから、民法の定める要件さえ満たせば、裁判所に申し立てれば必ず認められることになります。
囲繞地通行権による通行の場所と方法は、通行する権利をもつ者のために必要なもので、しかも周囲の他人の土地にとって損害が最も少ないものを選ばなければなりません(民法第211条第1項)。
その他にも、袋地と囲繞地の各土地の沿革、袋地を生ずるにいたった経緯、従前の通路および実際に行われてきた通行の状況、現在の通路および通行の実状、各土地の地形的、位置的な状況、相隣地利用者の利害損失など諸般の事情を考慮し、具体的な事情に応じて、最も適当な通行範囲を定めるべきものであると考えられます。当事者間の協議で定められない場合には、最終的には裁判所に決めてもらうことになります。
通行する権利をもつ者は、通行する土地に生じた損害に対して補償金を支払わなければなりません。ただし、通路の開設のために生じた損害に対する補償金は一度に支払わなければいけませんが、それ以外の補償金は、1年ごとに支払うことができます(民法第212条)。
ひとつの土地を分割またはその一部を譲渡したために、公路に出ることができない土地ができてしまった場合には、袋地になった土地の所有者は公路に出るために、分割された他の土地のみを通行できます。この場合には補償金を支払う必要はありません(民法第213条第1項・第2項)。