当社は課税事業者でインボイス制度の登録も可能だが、取引先に免税事業者(と思われる事業者)がいる場合の注意について整理します。       これまでに説明してきたとおり、インボイス制度に登録できるのは、消費税の課税事業者のみです。   免税事業者はインボイス制度への登録ができませんので、2023年10月以後は、「インボイスではない請求書等」を発行することになります。   しかし、その「インボイスではない請求書等」を受け取った課税事業者では、その請求書等では仕入税額控除ができないという問題が生じます。       この関係の詳しい解説は、先月の7月号をご覧ください。(自社が免税事業者であった場合の視点で解説しています)       取引先からインボイスを受け取りたいと考えても、インボイスを発行してくれるのは課税事業者だけです。(インボイス発行事業者になれるのは課税事業者だけ)   そうなると、これまでに免税事業者(と思われる)取引先から、2023年10月以後にインボイスを受け取れるのか……という不安が生じます。       結局のところ、インボイス制度に登録するかは取引先の判断によるため、自社が気をもんでもしかたがありません。   インボイス制度のしくみから、現状において想定される状況を整理します。       2023年10月以前の制度では、取引先が免税事業者か課税事業者かを見分けることはできませんし、それを知る方法もありません。   課税事業者は税務署に「自社が課税事業者である」という届出をしていますが、その届出を他社が参照することはできないためです。       ちなみに財務省の推計(2009年)では、個人事業主のうち75%程度が免税事業者であると分析されています。   これは、売上が1,000万円を超えた場合に法人へ移行する個人事業主が多いことから、結果的に売上の少ない事業だけが個人事業主として残るためと推測されます。   このことから、取引先に個人事業主がいる場合は、その取引先は免税事業者かもしれない、という認識が必要です。       インボイス制度が始まると、税務署にインボイス発行事業者としての登録が必要です。この登録ができるのは、課税事業者のみです。   インボイス発行事業者の発行する請求書等には、インボイス登録番号(下図のうち、T-1234567890123)の記載もありますので、この点で誰が「課税事業者=インボイス発行事業者」であるかは明らかです。          免税事業者がウソをついて、勝手に番号を請求書等に記載した場合、罰則が適用される恐れがあります。   ちなみに、課税事業者であっても、インボイス発行事業者としての登録は義務ではありませんので、課税事業者でありながらインボイス非登録のケースもゼロではありませんが、事例としては少ないでしょう。       先月の7月号でも説明しましたが、対事業者取引である免税事業者は、取引関係の維持や損得関係を考慮すれば、必然的に課税事業者(インボイス発行事業者)に移行せざるをえません。(※誤解の無いように強調しておきますが、登録が強制される制度ではありませんので、あくまで免税事業者の自発的な判断です)   よって実際のところ、自社が取引先について必要以上に心配することはない……といえますし、いまの段階から心配してもどうしようもありません。       2023年10月以前における請求書等の消費税は「取引価格を構成する一部」であるため、免税事業者が消費税を請求しても、これを受け入れるかはあくまで取引上の判断です。   これは前述のとおり、2023年10月以前において取引先が免税事業者であるかを見分ける手段がないためです。       では、2023年10月以後のインボイス制度において、免税事業者が「消費税」と書いて請求した場合はどうでしょうか?   「インボイス発行事業者じゃないのに、消費税を請求するなんておかしいのでは?」という意見もありそうですが、いまのところ「免税事業者が消費税を請求したらダメ」というルールは国税庁のQ&Aを見ても、どこにも見当たりません。       結局のところ2023年10月以後も、免税事業者の発行する請求書等に記載のある「消費税」は、取引価格の一部を構成するものという見方に変化はないでしょう。   しかし、インボイスではない請求書等を受け取っても、自社ではこの消費税分を仕入税額控除とすることはできません。つまり、その消費税分を払っても、それは自社の「自腹負担」ということになります。   これは必然的に「請求の値上げ」を意味することになるため、取引先との相談が必要になるでしょう。   なお、「免税事業者なら、今後は消費税を記載するな! 本体価格だけで請求しろ!」と強制的に取引価格の引き下げを要請した場合、下請法や独占禁止法において問題となる可能性があります。       2023年10月以後においても免税事業者を続ける事業者もいるかもしれません。実務的に面倒だったり、インボイス制度をよく理解していない可能性があるためです。   また、対消費者取引をメインとしており、インボイスを発行することに意味がとぼしいため、免税事業者を継続する個人事業主もいることでしょう。(例:小売店、理容店など)       2023年10月以後、免税事業者から受けた請求書等やレシートについては、インボイスではないので、通常では消費税の仕入税額控除はできません。   しかし、免税事業者が不利になることへの配慮から、6年間の経過措置が用意されています。   この経過措置を利用すれば、免税事業者からの仕入でも、その一部について仕入税額控除を適用できます。   2023年10月~2026年9月 通常の80%の仕入税額控除   2026年10月~2029年9月 通常の50%の仕入税額控除       なお、免税事業者の発行する請求書等に「消費税」と書いてあるかは関係ありません。もし「消費税」と書いてあるとすれば、その部分も含む取引価格全体について、経過措置の対象になると考えられます。   (計算例:請求額11,000円→消費税相当分1,000円x80%=仕入税額控除800円)       この経過措置を考慮しつつ、免税事業者を継続した取引先について、取引価格を再設定することも考えられます。   ただし、インボイスではない請求書を受け取ることについては、経理における事務負担が増えることも考慮しなければなりません。       取引先との関係にもよるため、インボイス制度の始まる前にできることは少ないと思われます。   取引先に「免税事業者か」と聞くのは、「あなたのところの売上はいくら?」と聞くようなものですので、やはり失礼にあたるでしょう。       多数の個人事業主と付き合いのある事業であれば、いまのうちから「インボイス制度についてのお知らせ」のような案内を出しておくことも一案といえます。   個人事業主は、一般的に税理士との付き合いが少ないこともあり、税務にかかわる事前対応は思ったよりも期待できないと思われます。   インボイス制度に関する問い合わせが自社に殺到すると、自社が税務サポートの業務をしなければならず、応対に追われても大変です。どのような案内をするか、よく検討する必要があるでしょう。   なお、国税庁もインボイス制度についてのコールセンターを設けていますので、こちらを案内することも一案でしょう。