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「彼女を…食べ始めた…」襲われた女性は“顔のほとんどを失う”事態に…『人気チンパンジー女性襲撃事件』はなぜ起きた?(海外・平成21年)
「彼が…彼女を…食べ始めた…」。2009年、テレビにも出ていたチンパンジーが飼い主の友人女性を12分間にわたって襲撃する事件が発生。女性は両手や顔のほとんどを失う事態に…。いったいなぜ人々から愛されたチンパンジーは突如、凶暴になったのか? 実際に起きた事件などを題材とした映画の元ネタを解説する文庫新刊『 映画になった恐怖の実話Ⅲ 』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 続き を読む)
チンパンジーに襲われた女性。いったい何があったのか… ©getty
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2022年公開の「NOPE/ノープ」は、米ロサンゼルスに住む兄妹がUFOに遭遇したことから始まる奇想天外のホラー映画だ。
物語の中盤、本作のキーパーソンの1人であるジュープ(演:スティーヴン・ユァン)が過去に遭遇した、テレビ番組の生放送中にチンパンジーが突如暴れだす事件が描かれる。映画の中でも最も衝撃的なシーンだが、このエピソードは2009年に、人気チンパンジーだったトラビスが飼い主の友人女性を12分間にわたって襲い、彼女の顔面を粉々にした実際の悲劇がモチーフになっている。
主人公兄妹の知り合いであるジュープは劇中で「ジュピターズ・クレーム」というテーマパークを切り盛りしている。彼はかつて子役として活躍していたが、ある事件をきっかけにキャリアを暗転させる。「ゴーディ 家に帰る」というホームドラマに子供警官役として出演していた際、主役のチンパンジーであるゴーディが暴走、共演者の女性を襲い顔面を崩壊させ、その場で射殺されたのだ。ジュープ自身は被害を受けずに済んだものの、事件の一部始終を目撃したことで心に深い傷を負ったまま大人になる。
ゴーディのモデルになった雄のチンパンジー、トラビス(1995年生)も、2000年前後にテレビのバラエティやCMに出演するお茶の間の人気者だった。飼い主は米コネチカット州サムフォードでレッカー会社を経営するハロルド夫妻。彼らはミズーリ州の動物施設から譲り受けたトラビスを可愛がり、街へ買い物に行く際にしばしば地元の野球チームのユニフォームを着せ車に同行させた。
トラビスは住民や警官にも挨拶する愛嬌者で、たちまち地元で人気となり、その噂を聞きつけたテレビ局や広告会社から出演のオファーが舞い込む。
トラビスは実に賢いチンパンジーだった。鍵を使って自宅玄関のドアを開け、自分で着替えをし、植木鉢の植物に水を差し、夫妻の飼っている馬に干し草を与え、夫妻と共にテーブルで食事をした。他にも、ウォーターピックを使って歯を磨き、リモコンを使ってテレビを視聴、パソコンに自らログインし、車の運転さえこなしたという。
が、その一方、トラビスは時々、凶暴さを見せることもあった。そもそもチンパンジーは強い筋力を有し、特に雄は思春期を迎えると、経年ごとに強い攻撃性を示すようになる。トラビスも例外ではなく、2003年10月にはハロルド家の車から脱走、近くで車を運転していた住民を次々に襲うなどして数時間交通を麻痺させる事件を起こしている。