ロサンゼルスから全米に飛び火した抗議デモは、日本メディアでは“不法移民取り締まり抗議デモ”といった呼称が多いが、英語メディアでは“反ICE抗議(anti ICE protest)”が一般的だ。 ICEとは、国土安全保障省の移民関税執行局のことだ。 ロサンゼルスで抗議デモと暴動が発生した一つのきっかけは「ICEによる一斉検挙」の噂だった。 噂がパニックを引き起こすほど、ICEは不法移民に恐れられてきた。それは単にICEが不法移民取り締まりの中核を担うからだけでなく、手段を選ばないとみなされてきたからだ。 しかし、パラマウントでの抗議デモは、誤情報によってもたらされたものだった。 出典:BBCニュース 2025/6/9(月) ヘグセス米国防長官は(中略)ロサンゼルスに海兵隊と州兵を派遣したのは、ICEの職員を守るためだったと述べた。 出典:Reuters Japan 2025/6/11(水) ニューヨーク市では移民・税関捜査局(ICE)の事務所が入る建物前に数百人が集まり、「ICEは出て行け」などと抗議した。 出典:毎日新聞 2025/6/11(水) Agents(中略)arrested workers without any arrest warrant (後略). 出典:Southern Poverty Law Center 2018/6/7(木) ICEには以前から、令状なしの逮捕・拘束、弁護士の接見規制、長時間の尋問と拘留といった超法規的な手法に関する批判があった。逮捕者がヒスパニックに偏っているという指摘もある。 カリフォルニア州巡回裁判所は2019年、ICEの手法が合衆国憲法修正第4条で保証される身体拘束からの自由に反するという判決を下していた。 しかし、2024年大統領選挙で不法移民の国外退去を公約に掲げたトランプ政権は、こうした問題をほぼそのままにICEによる摘発を加速させてきた。 だからこそ不法移民は「ICEの捜索」という噂に過剰なほど反応したとみてよい。 一方、トランプ政権の後ろ盾を得たICEは、不法移民取り締まり反対派の排除にも着手している。 ロサンゼルスで大規模な抗議デモと警官隊の衝突が初めて発生した6月6日、労働組合幹部がICE職員に暴行され病院に送られた。この労働組合幹部は抗議デモを支持していたが、衝突の現場から離れた場所にいた。 こうした背景のもと全米で広がる反ICE抗議デモは、不法移民の国外退去の問題もさりながら、ICEの超法規的手法と、海兵隊まで派遣してそれを擁護するトランプ政権のあり方が、主な批判対象になっているといえるだろう。