関税制度
適用法令
2014年1月から2023年末まで、一般特恵関税制度(GSP)の適用に関する欧州議会・理事会規則978/2012による規定が適用される。欧州委員会は2021年9月、2024年~2034年までのGSP適用に関する新たな規則案を発表したものの、欧州議会と理事会で合意に至らず、欧州委員会は2023年6月に現行規則を改正し適用期間を2024年~2027年まで延長することを提案。2023年11月に欧州議会と理事会は同改正を承認した。
一般特恵関税制度(GSP)の適用に関する2012年10月25日付欧州議会・理事会規則978/2012(Regulation (EU) No 978/2012 of the European Parliament and of the Council of 25 October 2012 applying a scheme of generalised tariff preferences and repealing Council Regulation (EC) No 732/2008)
(改正を反映した本文は、リンク中の「Current consolidated version」を参照)
なお、GSP制度の対象国や、対象製品のリストは同規則の付属書に記載されている。各リストの掲載箇所は次のとおり。
付属書
対象国・対象製品
GSPの有資格国(欧州委員会委任規則1421/2013により改正)
付属書Ⅱ
GSPの受益国(欧州委員会委任規則1421/2013、1015/2014、1016/2014、2015/1979、2017/217、2018/148、2021/114、2025/214により改正)
付属書Ⅲ
「GSPプラス」の受益国(欧州委員会委任規則1/2014、182/2014、1015/2014、1386/2014、2015/1979、2016/79、2017/836、2018/148、2021/114、2021/576により改正)
付属書Ⅳ
「武器以外のすべて(EBA)」の受益国(欧州委員会委任規則1421/2013、2015/1979、2018/148、2021/2127により改正)
付属書Ⅴ
GSPの対象製品
概要
EUでは1971年以降、開発途上国に対し、一般特恵関税制度(GSP)の枠内で、貿易特恵(輸入税の免除、または軽減)という形の優遇措置を付与している。互恵性を求めないこの取決めは定期的に見直されており、当該期間に適用される規則により実施される。現行の欧州議会・理事会規則978/2012の適用期間は、2014~2023年の10年だが、後発開発途上国(LDC)への特恵措置は無期限で適用される(改正規則2023/2663により2027年まで適用期間が延長された)。受益国のリストは、新たな要請や定期的な監視などを通し、適宜更新される。
一般特恵関税制度には、次の3種類がある。
GSPの対象製品は、規則978/2012の付属書Vに記載されており、ここでは製品を「非センシティブ品目(NS)」と「センシティブ品目(S)」に区別している。非センシティブ品目は関税が完全に免除され、センシティブ品目には軽減税率が適用される。ただ、GSPプラスの受益国については、センシティブ品目であっても、一定の条件を満たせば関税が免除される。EBAの受益国については、無条件で武器以外のすべての製品の輸入関税が停止される。各制度の受益国を次に示す。
表:一般特恵関税制度の受益国
種類
国名
コンゴ共和国、クック諸島、インド、インドネシア、ケニア*3、ミクロネシア連邦、ナイジェリア、ニウエ、シリア、タジキスタン
GSPプラスの受益国
ボリビア、カボベルデ、キルギス、モンゴル、パキスタン、フィリピン、スリランカ、ウズベキスタン
EBAの受益国
アフガニスタン、アンゴラ、バングラデシュ、ベナン、ブータン*4、ブルキナファソ、ブルンジ、カンボジア*1、中央アフリカ共和国、チャド、コモロ、ジブチ、エリトリア、エチオピア、ガンビア、ギニア、ギニアビサウ、ハイチ、キリバス、ラオス、レソト、リベリア、マダガスカル、マラウイ、マリ、 モーリタニア、モザンビーク、ミャンマー、ネパール、ニジェール、ルワンダ、サントメプリンシペ、セネガル、シエラレオネ、ソロモン諸島、ソマリア、南スーダン、スーダン、タンザニア、コンゴ民主共和国(旧ザイール)、東ティモール、トーゴ、ツバル、ウガンダ、バヌアツ*2、イエメン、ザンビア
*1:特定製品の特恵扱いを2020年8月12日から一時停止
*2:2025年から対象外となる国
*3:2027年から対象外となる国
*4:2028年から対象外となる国
出所:欧州委員会委任規則1421/2013、1/2014、182/2014、1015/2014、1016/2014、1386/2014、2015/1979、2016/79、2017/217、2017/836、2018/148、2020/128、2020/550、2021/114、2021/576、2021/2127、2024/1363、2025/214
規則978/2012の関連規則としては、GSPプラスの特恵措置付与手続きに関するルールを制定する規則(欧州委員会委任規則155/2013)や、GSP受益国の優遇措置の一時停止に関するルールとセーフガード措置の採用手続きを制定する規則(欧州委員会委任規則1083/2013)が発表されている。
GSP制度情報 "Generalised Scheme of Preferences (GSP)"
GSP制度に関する情報サイト "GSP hub"
また、原産地証明を行うための新たなシステム(REXシステム)が導入され、2017年1月から、順次、既存システムに取って替わっている。REXシステムの詳細内容は、UCC実施規則(2015/2447)に規定されている。これにより、GSPに関する原産地証明は、認可事業者で「登録輸出業者」として適切に本システムに登録を完了した者が、自己申告の原則に基づき実施することになった。
なお、同システムへの移行は2020年6月末までにすべての受益国で完了する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受け、一部の国(バングラデシュ、ベトナム、インドネシア、フィリピン等)では特例措置として最長2020年12月31日まで移行期間の延長が認められた(詳細は欧州委員会ウェブサイト「REXシステム(Registered Exporter system)」を参照)。
2020年12月末に英国のEU離脱に伴う移行期間が終了し、英国が完全にEUを離脱したこと受け、英国税関によりREXシステムに登録されていた輸出業者、英国で設立されEU加盟国税関により登録された輸出業者、加盟国で設立され加盟国税関により登録された輸出業者のうち英国EORIを有する輸出業者については2021年1月、その登録が無効となった。
[参考]ジェトロの調査レポート等
GSP改革について
「EUの一般特恵関税(GSP) 制度改正とその背景 ‐いかに対応するか‐(2012年12月)」
「マレーシアなどが特恵対象外に‐GSP新規則を公示‐」(2012年11月2日付ジェトロの記事)
GSPの原産地規則について
「特恵関税に関する原産地規則(EU)(ユーロトレンド2006年2月号 Report2)」
「EUのGSP原産地規則ガイド(仮訳)(2012年4月)」
西バルカン諸国に対する関税停止措置
ジェトロ:EU 関税制度 特恵等特別措置 西バルカン諸国に対する関税停止措置 詳細(164KB)
アフリカ・カリブ海・太平洋(ACP)諸国に対する特恵措置
欧州理事会規則2016/1076(2016年7月28日発効)により、経済パートナーシップ協定(EPA)の締結に向けて進展がみられる一部のアフリカ・カリブ海・太平洋(ACP)諸国を原産とする製品に、関税撤廃や関税割当の撤廃を含む特恵措置を適用している。付属書Iに対象国リストを、付属書IIにこれらの国を原産とする製品と規定されるための条件や各種手続きを掲載している。なお、付属書Iに記載された対象国の一部は、一般特恵関税制度(GSP)の対象国と重複している(前述「一般特恵関税制度」参照)。
特定のACP諸国に対する特恵措置に関する2016年6月8日付欧州議会・理事会規則2016/1076(Regulation (EU) 2016/1076 of the European Parliament and of the Council of 8 June 2016 applying the arrangements for products originating in certain states which are part of the African, Caribbean and Pacific (ACP) Group of States provided for in agreements establishing, or leading to the establishment of, economic partnership agreements)
(改正を反映した本文は、リンク中の「Current consolidated version」を参照)
表:EPAに関連した特恵措置の対象国
地域
国名
コートジボワール、ガーナ
中部アフリカ
カメルーン
東南部アフリカ
モーリシャス、セーシェル、ジンバブエ、マダガスカル、コモロ
東アフリカ共同体
ケニア
南部アフリカ
ボツワナ、エスワティニ(旧スワジランド)、ナミビア、レソト、モザンビーク
カリブ海諸国
アンティグアバーブーダ、バハマ、バルバドス、ベリーズ、ドミニカ、ドミニカ共和国、グレナダ、ガイアナ、ジャマイカ、スリナム、セントルシア、セントビンセント・グレナディーン、セントクリストファーネイビス、トリニダード・トバゴ
太平洋諸国
パプアニューギニア、フィジー、サモア、ソロモン諸島
出所:欧州理事会規則2016/1076、2017/1551、2019/821、2019/2178、2020/1138